聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
村人に聞いて、刺繍飾りの店を訪れたアーレスは、そこでイズミに似合いそうな髪飾りを見つけた。
「……綺麗だな」
「お目が高いですね。その職人はもういないので、貴重ですよ」
村人は通りすがりの騎士に多くを語るつもりはないらしい。おそらくはフレデリックの恋人の作ったものだろうが、アーレスも頷くにとどめる。
「贈り物にしたいんだ。適当に包んでくれるか?」
「贈り物なら適当ではダメでしょう、騎士様。ちょっと待っててくださいね」
気を利かせた女店主が、ワックス紙で作られた袋を、リボンを数本重ねて飾り付けてくれる。
「飾り代、のせときますねー!」
「う、うむ」
そして割とちゃっかりしている。しかし、アーレスでは絶対にできないようなラッピングをしてもらったのでなにも言わず支払った。
いずみの喜ぶ顔を想像したら、飾り代など安いものだと思えた。そしてふと思いついて、女主人に尋ねる。
「主人、この刺繍の職人は数多くいるのか? 個人的な注文を受ける余裕はあるか?」
「この村の女たちはたいていできますよ。ただ、個別で注文となれば高くつきますけどね」
「値段がいくらでも構わん。ただ刺繍の範囲が広い。それができる職人がいるならば紹介してほしい」
アーレスは連絡先として、これから数日滞在する宿の名前を伝える。
近日中に連絡します、と女主人は顔をにんまりとして答えた。