聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
*
扉をノックし、返事を待たずに中に入る。アーレスは相変わらず苦しそうな息をしたまま、ベッドに横になっていた。
「アーレス様、ご飯ですよ」
盆をサイドテーブルに置き、額に載せたタオルを交換する。
額に感じた冷たさに、アーレスがゆっくり目を開けた。
「……イズミ」
「気づかれましたか、アーレス様」
いずみはホッとして笑おうとした……が、自分でも予想外に、涙が浮かんできた。
「イズミ?」
熱のある体で、アーレスが起き上がる。ダメです、横になっていてください、と言いたかった。だけど、込みあがってきた嗚咽が、それを許さなかった。
「うっ……えっ……」
「泣くな、イズミ。すまない、心配をかけた」
「ぶ、……じ、でよかったです」
ぽろぽろと涙が零れ落ちる。泣く女を慰めることなど、アーレスの最も苦手とするところだ。
彼はしばらくオロオロと両手をさまよわせた後、おそるおそると彼女の背に手をまわした。
そして、ゆっくりと抱きしめる。
「……ただいま」
アーレスの体は、熱かった。まだ熱があるのだ、寝ていないと苦しいだろうに。
それでも彼は、泣く妻を安心させようと手を伸ばしてくれる。誰よりも優しい勇者だ。
いずみは鼻をすすって涙を封じ込めた。
「もう大丈夫です。横になってください、アーレス様」
「だが」
「おかえりなさいませ。帰ってきてくださって、嬉しいです」
「ああ。情けないところを見せたな」
一瞬顔が近づいてきて、いずみは思わず動揺した。しかしその体の震えを感知したアーレスは、すぐに身を離す。
扉をノックし、返事を待たずに中に入る。アーレスは相変わらず苦しそうな息をしたまま、ベッドに横になっていた。
「アーレス様、ご飯ですよ」
盆をサイドテーブルに置き、額に載せたタオルを交換する。
額に感じた冷たさに、アーレスがゆっくり目を開けた。
「……イズミ」
「気づかれましたか、アーレス様」
いずみはホッとして笑おうとした……が、自分でも予想外に、涙が浮かんできた。
「イズミ?」
熱のある体で、アーレスが起き上がる。ダメです、横になっていてください、と言いたかった。だけど、込みあがってきた嗚咽が、それを許さなかった。
「うっ……えっ……」
「泣くな、イズミ。すまない、心配をかけた」
「ぶ、……じ、でよかったです」
ぽろぽろと涙が零れ落ちる。泣く女を慰めることなど、アーレスの最も苦手とするところだ。
彼はしばらくオロオロと両手をさまよわせた後、おそるおそると彼女の背に手をまわした。
そして、ゆっくりと抱きしめる。
「……ただいま」
アーレスの体は、熱かった。まだ熱があるのだ、寝ていないと苦しいだろうに。
それでも彼は、泣く妻を安心させようと手を伸ばしてくれる。誰よりも優しい勇者だ。
いずみは鼻をすすって涙を封じ込めた。
「もう大丈夫です。横になってください、アーレス様」
「だが」
「おかえりなさいませ。帰ってきてくださって、嬉しいです」
「ああ。情けないところを見せたな」
一瞬顔が近づいてきて、いずみは思わず動揺した。しかしその体の震えを感知したアーレスは、すぐに身を離す。