聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~

「すまん。熱があるから、ふらついてて」

「お食事、作ってきました。食べられるよう喉通りのいいものにしたんですけど」

そうして食事をみせれば、アーレスは喜んで食べ始めた。

「イズミは食べないのか?」

「あ、そういえば自分の食事はもらってなかった。……後で食べます」

「こ、ここにありますよー!」

小さな声が響いて、扉の方を見れば、エイダが顔を真っ赤にして立っていた。

「悪気はないんです。ただ、ノックしたのに返事が無いからテーブルに置かせてもらおうと思って開けたら、その、いささか声をかけづらい状況で。……運んできただけなので、私は何も覚えてないので、怒らないでくださいね!!」

敢えて足音を立てて中に入り、テーブルにいずみの食事を置いた後は、バタンと激しい音を打ち付けて、出ていく。
その間、何の言葉も発せなかったいずみとアーレスは、真っ赤になったまましばらく見つめ合う。

「た、食べましょうか!」

「ああ、いずみも一緒に食べよう」

先ほどまでの甘めの雰囲気は既にどこかに行ってしまった。
自分で食べられるというアーレスにお盆ごと渡し、いずみはいずみでエイダの持ってきてくれた食事を口にする。

「……これは、いずみが作ったのか?」

一口食べてアーレスが言う。

「分かりますか?」

「ああ。いつもの食堂の料理とは違って、あっさりとしていて食べやすい。俺は君が作る料理が一番好きだな。ここのはいつも脂っこいし。宿の料理も悪くはなかったが、落ち着く味ではなかった」

アーレスにしては言葉多めで、しかもお世辞を言うタイプじゃないというのが分かっているだけに、いずみは顔が熱くなるのを止められなかった。

(妻として求められてはいなくても、家庭の味として大切に思ってくれるだけで十分……でもそれって母親?)

いずみが内心でぐるぐると考えていると、少しトーンを落とした声が上から振ってきた。

「……すまなかったな、心配かけて」

我に返って顔を上げると、アーレスは悔しそうな表情で窓の外を見ていた。

外では、再開された弓隊の訓練の声が響いている。
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