聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~

やがて訓練所の手前でアーレスの怒号が響いてきて、ふたりは頷いて足を早めた。

「まだまだぁ! 立て! フレデリック」

「無理です! 団長、本当に怪我人なんですか」

「お前など片手で充分だ」

アーレスが怪我をしていない方の手で木刀をふるっている。
そして手前にはどうやら負けたらしいフレデリックの姿もあった。

「バケモン……」

フレデリックのつぶやきに、イズミも思わず同意しそうになった。

「お前は女性の気持ちを軽視しすぎる。彼女たちは俺たちよりずっとか弱いんだ。守るならまだしも、傷つけるとはどういう了見だ」

「だ、だから。反省して今後はちゃんとしますって」

「その踏み台にさせられたものの痛みはこんなもんじゃない。甘んじてくらえ!」

アーレスの言いたいことにはおおむね同意するところだが、このままではまた傷口が開くほど暴れられてしまう。
イズミはこれ以上ないほど腹に空気を吸い込み、渾身の大声を出した。

「そこまでです!」

するとぴたりとふたりの男性の動きが止まる。
いずみの姿を認めたアーレスは、険しい顔をやや緩ませた。

「イズミ」

「アーレス様、もうそろそろ十分でしょう? これ以上やられると、あなたが心配で私が泣かなきゃいけなくなります」

正直に伝えると、アーレスは顔を真っ赤にさせた。

「……早く屋敷に帰ってきていただきたいですし、その、早く治ってほしいんです」

「そ、そうですよ。私もおかげでスッキリしました。もう大丈夫です、アーレス様」

エイダが後押しするように言う。
アーレスは咳払いすると、あっさりと木刀を下ろした。

「まあ、イズミとエイダがそう言うなら、このあたりにしておこう」

半殺しを免れたフレデリックは、ホッと胸をなでおろしつつ、「すげぇ。聖女ってか、猛獣使いなんじゃ……」などと、失礼極まりないことを言ってのけたのだ。

< 170 / 196 >

この作品をシェア

pagetop