聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
やがて訓練所の手前でアーレスの怒号が響いてきて、ふたりは頷いて足を早めた。
「まだまだぁ! 立て! フレデリック」
「無理です! 団長、本当に怪我人なんですか」
「お前など片手で充分だ」
アーレスが怪我をしていない方の手で木刀をふるっている。
そして手前にはどうやら負けたらしいフレデリックの姿もあった。
「バケモン……」
フレデリックのつぶやきに、イズミも思わず同意しそうになった。
「お前は女性の気持ちを軽視しすぎる。彼女たちは俺たちよりずっとか弱いんだ。守るならまだしも、傷つけるとはどういう了見だ」
「だ、だから。反省して今後はちゃんとしますって」
「その踏み台にさせられたものの痛みはこんなもんじゃない。甘んじてくらえ!」
アーレスの言いたいことにはおおむね同意するところだが、このままではまた傷口が開くほど暴れられてしまう。
イズミはこれ以上ないほど腹に空気を吸い込み、渾身の大声を出した。
「そこまでです!」
するとぴたりとふたりの男性の動きが止まる。
いずみの姿を認めたアーレスは、険しい顔をやや緩ませた。
「イズミ」
「アーレス様、もうそろそろ十分でしょう? これ以上やられると、あなたが心配で私が泣かなきゃいけなくなります」
正直に伝えると、アーレスは顔を真っ赤にさせた。
「……早く屋敷に帰ってきていただきたいですし、その、早く治ってほしいんです」
「そ、そうですよ。私もおかげでスッキリしました。もう大丈夫です、アーレス様」
エイダが後押しするように言う。
アーレスは咳払いすると、あっさりと木刀を下ろした。
「まあ、イズミとエイダがそう言うなら、このあたりにしておこう」
半殺しを免れたフレデリックは、ホッと胸をなでおろしつつ、「すげぇ。聖女ってか、猛獣使いなんじゃ……」などと、失礼極まりないことを言ってのけたのだ。