聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~


結局、聖女の力は開眼しないまま、更に数ヵ月が過ぎ、ある日、いずみはオスカーに呼び出された。

「一週間後、夜会を開く。そこで君の婚約者候補と引き合わせよう」

「え?」

「ここに来てもう半年近い。……ここまでたっても開眼しないのならば、君に聖女の能力は無いのだろう」

ついに、三下り半を突き付けられた。
いずみは目の前が真っ暗になるのを感じた。

聖女になりたかったわけではない。
だけど、仮にも召喚されて異世界にきたのだから、なにか自分だけに与えられた役目があるのだと思っていた。

(……のに、やっぱり私はここでもいらない存在なんだ)

「選定した候補者は三人だ。君の年と釣り合いの取れる人間となるとそうはいなくてな。
ひとりはクラウディオ・パルティス子爵、三十歳。妻を昨年亡くして、娘がひとりいる男やもめだ。もうひとりはイーサン・ネクロイド伯爵、五十二歳。こちらも奥方をずいぶん前に亡くされてる。子供は自立しているので君がなにかする必要はないだろう」

続くオスカーの言葉に、いずみは焦る。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。みんな再婚ばっかりじゃないですか。嫌ですよ」

現代日本では、二十六歳は結婚するには若い部類だ。何が悲しくて後妻に入らなければならないのか。

しかしオスカーは、いずみこそ変なことを言っているという顔だ。

「そうはいっても、この国では、大抵の奴は二十代前半で身を固めてしまうからな。独身の若い男となると、お前よりも五歳は若くなるけどいいのか?」

「……五十二歳よりは」

いずみは真顔で返す。オスカーの頬が若干引きついているのはちゃんと目に入っているが、これは譲れない。五十二歳よりは若い方がいい。
< 20 / 196 >

この作品をシェア

pagetop