聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~

気に入らない男のもとに嫁いで、辛いのは女性の方だ。
アーレスとて普段女性が側にいないから禁欲的に暮らしているだけで、女嫌いなわけではないのだ。三十六歳はまだ老人ではない。四六時中一緒にいれば、欲望に逆らえなくなるくらいには男だ。
十も年上の、クマのような大男に組み敷かれれば、か弱い女性は抵抗などできない。

アーレスの怒りの剣幕に、オスカーは若干引き気味だ。言葉を選んでこの遠慮のない騎士団長をなだめにかかる。

「わかった。それでいい。選ぶのは聖女だから、お前は今日の夜会にさえ出てくれればいいんだ。……だが、騎士団長就任の話は納得してもらうぞ。お前をいつまでも副長にしておくわけにはいかないんだ。頭角を現した若者たちのつくポジションが無くなるからな」

それにはアーレスも頷かざるを得ない。以前から苦笑交じりに前団長からも言われていたことだ。副長という立場は融通が利いて楽だったが、いつまでも自由ばかり求めるわけにはいかない。いつまでも我儘を言っていられる年齢ではないのだ。

「分かりました」

アーレスは頭を下げ、部屋を出ようと背中を向けた。そこに、国王の呆れたような声がかかった。

「アーレス、お前その格好で夜会に出るのか?」

「おかしいですか? 団服は正装にあたるでしょう?」

「いや? 悪くはないが、いかにも戦士って感じだなと思ってな」

「これがありのままの姿です。繕っても仕方ないでしょう」

ぴしゃりと言い放ち、部屋を出たアーレスは、扉を閉める瞬間、やれやれと両手を持ち上げる国王の姿を目の端に映した。

(余計なお世話だろう。この年で夜会に浮かれてどうする。それより、問題は聖女だ。さて、どうするべきか)

基本方針は決まっている。オスカーにも告げたように、決めるのは聖女であるべきなのだ。
自分にできることとすれば、とりあえず夜会に出て聖女に挨拶をすることと、彼女が自分よりもっといい相手と出会えるよう、祈るくらいのことなのだろう。

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