聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~


アーレスはそのまま、夜会会場へと赴いた。
まだ開始時間ではないが、すでに会場は整えられており、軽食を運ぶ給仕たちが慌ただしく行き来している。
楽団の生演奏が、耳に心地いい。アーレスの普段の生活にはない華やかな空間は居心地悪いが、音楽は嫌いではない。

「あれ、アーレス様」

目ざとくアーレスに気づいた招待客が声を上げると、あっという間に人が周りに集まってくる。

「アーレス。団長就任だってな。おめでとう」

「五年ぶりですわね。相変わらず逞しいお姿ね」

「これが新しい勲章か?」

アーレスの実家、バンフィールド伯爵家はアーレスを除き、社交的な人間の集まりだ。
現在の当主である父も、後継者にあたる兄も、嫁に行った姉も、こうした場所で知らない人はいないほど有名である。その弟ということで、アーレス自身が社交的でなくとも、名前や功績は知れ渡っているのだ。

ちなみにアーレスが普段出席するのは戦の戦勝会くらいで、交流目的のものはほとんど断っている。

(どうせ、継ぐべき爵位もないのだし。騎士団のどこかに席を置いて一生を終えられれば本望なのだが)

ひと通り相手をした後、アーレスは給仕からグラスを受け取り、一口含む。
すっかり喉が渇いていたから、アルコールがうまい。

「あ、オスカー様がいらっしゃるわ」

陛下のお出ましの声が響き渡ると、女性陣の声が一気に色めき立つ。
当然ながら容色の整った若き国王は社交界の人気ナンバーワンだ。

(見目麗しく若い陛下こそ、さっさと結婚すればいいのだ。早いところお世継ぎを設けてもらわなければ、陛下の次は傍系から国王を立てなければいけなくなる)

アーレスは生真面目にそう思いながら、この広間と螺旋階段でつながる二階の吹き抜けを見上げた。
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