聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
「オスカー陛下と聖女イズミ様がお入りになられます」
なんと、聖女も一緒に登場するらしい。
会場内の期待は高まる。演奏楽団は、登場が盛り上がるような背景音楽を演奏し始めた。
おもむろに両扉が開き、見目麗しい男女が登場する。会場の面々はわっと歓声を上げ……そして一瞬、静まった。
皆の視線は、聖女に向いている。
ミヤ様と同じ黒い髪。オレンジのバラの花束のような豪奢なドレス。しかし、それを着ている肝心の聖女は、とても地味な顔をしていた。卵型の輪郭に小粒な瞳。丸みを帯びた鼻に小さな口。それに無理やり派手な化粧をしているから、ひどくアンバランスに見える。
隣に陛下がいるのも良くない。誰もが振り向く美男子が傍にいては、容姿の平凡さが際立つというものだ。
周りの落胆のため息に、彼女は怯えたように身を震わせていた。
(これは……気の毒な)
本音を言えば、アーレスもミヤ様のような美しい女性を想像していたし、落胆もした。だが同時に、肩身が狭そうにしている彼女への同情の気持ちも沸き上がった。
勝手に期待されて勝手に失望されるのは、誰だって気分がよくない。まして彼女はこの世界にさえ無理やりに連れてこられたのに。
「やあみんな、よく集まってくれたね。こちらが聖女イズミだ。ミヤ様と同じ国から召喚された。この半年の間、彼女は非常によく力を尽くしてくれた。よって、今後はこの国の一員として穏やかに過ごしていただこうと思う」
陛下の紹介に、彼女は居心地が悪そうに頭を下げた。
それはそうだろう。半年でお役御免になる聖女なんて、無能だったと宣言されているようなものだ。
(陛下ももうちょっといい方ってもんが)
そもそも、なぜわざわざ夜会などを開く必要があったのか。
余程の馬鹿じゃなければ、今みたいに針のむしろのような状態になることくらい、想像できるはずだ。
そう考えてから、アーレスは陛下をもう一度見つめる。