聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
彼が聖女に向ける笑顔には、悪意などみじんにも感じられなかった。
(違った。陛下には想像などできないのだ)
麗しい見た目で、こういった場所で好意にしか触れてこなかった陛下は、おそらく、彼女が感じる引け目や力不足な自分を嘆く心持ちなど、理解できていないのだ。
常に誰の悪意も受け付けない鉄壁のカリスマに、平凡な人間が持つ些細な感情の機微など掴めるはずもない。
「……呆れるな」
アーレスが思いを巡らして納得している間に、国王は聖女をアーレス以外の候補者に引き合わせていた。
ふたりも皆と同じように、ミヤ様を思わせるような美女を想像していたに違いない。
子持ちのパルティス子爵はあからさまに引いている。彼はもともと愛妻家だったし、亡くなった奥方は有名な美人だったはずだ。
「娘が気難しくて……」などと娘を理由にやんわりお断りの方向へと話は向かっていた。
ネクロイド伯爵は、恰幅がよく、礼儀正しい紳士なので、にこやかに会話をしているものの、さすがに五十二歳は年上すぎる。どう見ても親子にしか見えない。
これに関しては聖女の方が引いている。
「ちなみに聖女殿は子供は何人欲しいですかな?」
結婚するしないの前に、その発言は頂けない。いや、駄目なわけじゃないが、それをいうときはその欲を孕んだような目つきを止めた方がいい。胸元を見ながらのそのセリフは、どう考えても体目あてにしか思えない。
「……駄目だ」
堪忍袋の緒が切れそうだ。
アーレスは腕を組んで堪える。だがいら立ちは隠しきれず、無意識につま先を動かし、軍靴を鳴らしてしまう。