聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
こんな夜会、ぶち壊してしまえばいい。
胸に去来した思いはまずはそれだ。
もしも王都にいて、陛下から事前に聖女のお披露目の相談をされたなら、絶対反対した。
女性の心を傷つけるだけの夜会などする必要ないだろう。
(……滅してしまえ)
気が付くと体が動いていた。オスカー陛下の声だけがにぎやかなその一団に、アーレスは無言で突撃する。
「失礼」
ふたりの候補者をかき分けるようにして、聖女の前へと割って入る。陛下がすぐに気づき、顔をほころばせた。
「あ、イズミ。彼が三人目の候補者だよ、アーレス・バンフィー……」
「お初にお目にかかります。聖女イズミ殿。アーレス・バンフィールドと申します」
アーレスは、王妃か王女を前にしたときのようにうやうやしく聖女の前に跪き、ちらりとほかの候補者ふたりを睨んだ。
(本来、このくらいの敬意を払われてしかるべき立場の方だ。なのに、なぜお前等はのうのうと立って見下ろしているのだ)
聖女は驚いた様子でアーレスを見つめていた。
全体的にこじんまりとした顔の作りで、綺麗な黒い瞳が宝石のようにきらめいていた。
なんだ、とアーレスは思う。
(服が合っていないだけで、よく見れば可愛い顔をしているじゃないか)
そして、柄にもなく滑るように、愛を乞う哀れな騎士を歌った詩編のような文言を口にした。