聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~


話が整うのは早かった。
陛下は、聖女を娶るのに必要な身分として、アーレスに空席となっていたバーリントン伯爵の名を与えた。
それにより、彼の名は、バーリントン伯爵アーレス・バンフィールドとなる。
領地はそれほど広くはないが、王都からそう遠くもない。バーリントン伯爵家は先代の後継ぎがおらず、爵位が返納されたと同時に領地も王家の管轄になっていた。今回はその領地の一部をいただいた形だ。

騎士団長という役職のため、今後は王都に屋敷を構えなければ通えないので、アーレスは王都の賑わいから離れた東の外れにある屋敷を買った。
ここは昔ながらの貴族街で、継承者が絶えた高位貴族の建物が多く残っているのだ。

領地の屋敷は主人不在の間、管財人が管理していてくれたというので、しばらくはそのまま任せることにし、慣れた使用人と、両親が推薦した侍女をタウンハウスへと連れてきて、屋敷を整ることにした。

「聖女殿が困らないように、気を付けてあげてほしい。この世界の常識はほとんど知らない前提でいろいろ教えてあげてほしいのだ」

侍女のジナにそう言い含め、花嫁を迎えに行く。

本来は結婚式をするべきなのかもしれない。
陛下にも両親にも言われたが、アーレスは気乗りしなかった。
何せアーレスは初婚というには遅すぎる年だし、聖女もそれなりだ。
どちらともなく、「あまり目立たず控えめにしていたい」と言い出し、式は行わないことにした。
< 36 / 196 >

この作品をシェア

pagetop