聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
「さあね。ただ、君みたいなストイックな人材がいなくなるとどうしても生ぬるくなるもんだよ」
「……しばらく時間はかかると思いますが、騎士団は建て直してみせます」
「頼もしいね。任せたよ」
「はい。では。行こう、イズミ」
連れて行こうと手首をつかんで、一瞬何もないんじゃないかと思うほどの細さに驚く。
(え、これで生きていけるのか? 骨しかないじゃないか)
「アーレス様?」
きょとんと見上げるいずみには、アーレスが何を思っているのかも分からないのだろう。
掴んだ手首の先をプラプラと動かしながら、「行かないんですか?」と見上げてくる。
(……いや、落ち着け俺。生身の女性を触るのが久方ぶりだからといって驚きすぎだ。三十六歳の騎士団長はもっと落ち着いてスマートに女性をエスコートするものだろう)
そう自分に言い聞かせ、掴んでいた手を離し、今後についていずみに説明を始める。
「いや……まずは教会によって、結婚宣誓書にサインをする。そのあとは屋敷に戻るから、君は自分の荷物を整理してくれ。ここで使っていた荷物はすべて従者に運ばせてあるから」
「はい」
頷くいずみには、心なしか元気がない気もした。
あの後、国王陛下による、聖女降嫁の命が正式に出され、結婚に関する取り決めはつつがなく決まった。
今日迎えに来ることも、前々から伝えてあったはずだ。
(どうしたんだ? なにか不満か?)
アーレスの姉は口うるさく、常に女性に対し、礼を失しないようにと言われ続けて育った。
だからこそ、女性経験が少ない割に、アーレスはレディファースト精神が行き届いている。