聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
(なにか失礼な行動をしたのかもしれない……が、なにが悪かったか全く思い至らない)
ひそかに困り果てている巨漢のアーレスは、さりげなく何気なく聖女を観察した。
いずみは、きょろきょろとあたりを見回していた。そしてその視線は、廊下の花瓶の上で止まる。と同時に、アーレスは自分の手落ちに気づいた。
(そうだ。俺は彼女の婚約者だというのに、手ぶらでやって来てしまった。迎えにくるにあたり、花束のひとつでも用意するべきだったのではないか)
遠い昔の話だが、友人たちは求婚の際、花束を贈ったと聞いている。姉にいたっては庭園をプレゼントされたと聞いた。
だが、気づいても、今更急に用意はできない。
(使いを出して、屋敷に花束を用意させるか? しかし不安いっぱいな聖女をひとりにさせるほうがよほど薄情なのでは……)
アーレスが考えあぐね、結局正直に謝るのが一番だという結論に達したと同時に、いずみはいずみで目当てのものを見つけたように声を上げた。
「す、すまん。イズミ……」
「あっ、いた。セシリー!」
軽やかな足取りで、花瓶のさらに奥で掃除をしていたメイドに駆け寄った。
メイドはいずみと年が近そうで、彼女に屈託のない笑顔を向けている。
「まあ、イズミ様。いよいよお輿入れですのね。どうかお幸せに」
「セシリー、今まで本当にありがとう。何のお礼も出来なくてごめんなさい」
「嫌ですわ。私はメイドです。聖女様にお話できてうれしかったです」
(気に入りのメイドか?)
主人とメイドという関係には見えないように親し気に握手を交わし、いずみは涙目になっている。