聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
この世界ではどうしたって親の爵位に左右される。土地持ちの貴族であれば、領地を守るため運営していかなければならないのだ。次男以下は騎士団にはいったり、文官を勤めたりと自分の生きる道を探すが、末席でも貴族の一員になっているものが、平民のように店で働くようなことはない。
(それがイズミの住んでいた世界? ミヤ様も暮らしていた世界?)
続ける言葉を見つけられずにいるアーレスに、いずみはしょげたような様子で頭を下げた。
「……ごめんなさい。この国の常識とは違うんですよね。私の方が異邦人なんだもの。本当は、国のルールに従わなきゃならないんですよね」
「いや、そんなことは」
「わあ、これが教会ですね」
弁明しようとして、なにをどう言いたいのかアーレスは自分でも分からなくなった。
違う世界から来た彼女は、自分がこの世界で少数派であることをちゃんと理解している。
彼女が召喚されてから約半年。その間に、さまざまな常識の違いと対面し、なんとか折り合いをつけてきたのだろう。
「……君の暮らしていた世界は、変わっているんだな」
せっかく替えた話題を蒸し返されたと思っているのか、いずみの眉間にややしわが寄る。
「その話は……」
「俺はいいと思う。君の意見を尊重しよう」
それ以上言うべきことが思いつかなくなり、アーレスはふいと顔を反らした。
いずみも何も言わなかったため、そのまま会話は無くなり、互いに無言のまま、教会では神父が勧めるまま結婚証明書にサインをした。
ビックリするくらい簡単に終わる。
これでもう、互いに夫婦なのだと思うと不思議でならない。