聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
役立たず聖女の初仕事

いずみは隣に立つ旦那様ことアーレス・バンフィールドと横目で眺め、ひそかにときめく胸を押さえた。

(王子様かと思ったよね。あのとき)

国王陛下により、夜会に連れ出されたときだ。
用意されたドレスは、ペールオレンジのふわふわしたドレスで、オレンジと白のグラデーションは足先のほうに向かうほど白っぽくなっていた。それ単体で見たらすごく素敵で、二十六歳の乙女としては否応なしに胸が躍った。
だけど、それは着るまでの話。実際それを身に着けた自分を見た瞬間、ドキドキは失望へと変わった。

(分かってたけどね? こんな華やかな色、和顔には似合わないよね)

だけど、王から贈られたドレスを着ないわけにもいかず、着付けるメイドさんたちも必死だ。違和感を何とかしようとどんどん化粧も厚くされて、ただでさえ小さな眼と口が、浮いてるみたいになった。

「これでいかがでしょう。お綺麗ですわ」

ついに匙を投げたと言った風に、メイドさんが化粧する手を止めた。

「……ありがとう」

気に入らない、なんて言えるわけがない。
いずみは役立たずとはいえ一応聖女で、彼女たちには逆らえない存在だ。文句をつけたもんなら、青くなって謝罪をするだろう。
せめてセシリーがいてくれたら、といずみは思う。
セシリーは掃除係だが、花を生けるセンスが最高にいい。
彼女だったら、せめて顔周りを彩る可愛い花くらいは選んでくれただろう。
だが、実際には彼女はおらず、いずみはこれまた似合わない大ぶりの花を、髪飾りとして付けられた。
顔が地味だから、あまり派手なものをつけられると顔が沈んじゃうんだけど、それにメイドさんたちは思い至らないらしい。
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