聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
そして出てみた夜会はやっぱり散々だった。
会場に集まる人々の失望を一身に浴び、紳士的にエスコートしてくれる超絶イケメンの王様の隣にいるのは、針のむしろ以外の何物でもなく、夫の候補者となるふたりの男性は、ひとりは困惑をあらわにし、もうひとりは欲をあらわにしている。
だが彼だけは違った。
「お初にお目にかかります。聖女イズミ殿。アーレス・バンフィールドと申します」
体の大きな騎士服の男性だった。立ったままならはるか高みから見下ろされただろうに、彼は膝まづいて、節くれだったごつい手でいずみの手をとった。
なぜか少し怒りをにじませて、求婚に似たセリフを口にする。
「私を選んでくださるならば、あなたを守る盾として、この身を尽くすことを誓いましょう」
横にいる本物の王様よりも、ずっと紳士然としていた。なにより、そらさずまっすぐ向けられた深い海のような濃青の瞳には誠実さが感じられた。
この世界に召喚されて半年。いずみが触れてきた視線は失望の色に染まったものばかりだった。
ミヤ様という最強の聖女の存在が、いずみに影を落とし続けていた。
それでも、調べれば調べるほど、ミヤ様が聖女と呼ばれるにふさわしいのを実感するばかりで、ミヤ様のようにならなくちゃと、必死に勉強や訓練をした半年。なのに結局何も身につかないまま過ぎてしまった半年。
厄介払いかと思えば、誰に嫁がされても文句は言えない。
自分の気持ちなど、主張してはいけないのだと、思っていた。
だけどこの時、いずみは久しぶりに自分の中に強い欲求が生まれたのを感じたのだ。