聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
やがて馬の歩みが遅くなり、止まった。
「ここが屋敷だ」
新居だという屋敷は、王都の賑わいからは離れた、東の外れにあった。
敷地内には林かと言いたくなるくらい木々が植えられていた。お屋敷は大きく、日本だったら文化財として紹介されていてもおかしくないくらいご立派だ。
「しばらく主人不在だった屋敷だから荒れてるんだ。徐々に整えていくさ。使用人も雇い直したんだが、まだ人数は足りていない。意見があれば言ってくれ」
「はい」
それでセシリーを雇うなんて話を持ち出したのか、といずみは納得する。
玄関前にはきっちり襟までしめ、蝶ネクタイを締めた格式ばった格好をした壮年の男性が待っていた。髪に白いものが混じっている。
「お待ちしておりました。旦那様、奥方様。私が家令を務めておりますリドルです」
「おく……さま」
いずみの顔が慣れない呼び名に戸惑い、真っ赤になる。
(奥様か、奥様……。悪くはないわ。なんかとても高貴な身分の人になったみたい。……って、アーレス様って騎士団長なんだっけ。結構な身分の人の奥さんになったんだった)