聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
目の前に映る自分を視界にとらえつつ、おそるおそる手を当てると、鏡に映るいずみはぱっと消え、次々にいろいろな映像が浮かび上がってきた。
「うわっ」
驚いて思わず手を離す。
「え? あれ?」
すると鏡からは映像が消え、再びいずみだけを映し出し、時折チカチカと瞬くだけになる。
(なにこれ。怖っ)
何が起こるかわからず、いずみは一度後ずさりをした。けれど、逃げようにもあたりには何もない静寂な世界が広がっているだけだ。
(ええい。他にどうしようもないじゃん)
いずみは意を決してもう一度鏡に手を当てた。
心づもりをして触れば、先ほどより状況が理解できた。
これは、ラジオのチューニングと似たようなもののようだ。チャネルが合えばはっきりした映像が見えるが、ザーッと砂嵐のような映像が流れて、音もしっかり合わないことがある。
けたたましく流れていく映像の中で、いずみの目を引いたのは、戦場の映像だ。意識がそこにとどまったせいか、先ほどより映像の動きがゆっくりになる。
それは丘の上の戦場だった。切り立った崖に追い詰められた負傷した兵士と、彼をかばうようにして前に立つ立派な体躯の戦士がひとりずつ。対するは、揃いの兜を付けた。三人の兵士だ。
戦士は大きな剣を構えているにも関わらず、俊敏な動きで三人の兵士相手に向かっていく。一対三という状況ながら、動きを計算し、着実にひとりひとりに重傷を負わせていくので、いずみは思わず見とれた。