聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
ひとり、ふたりと戦士にやられていき、彼が最後のひとりを切りつけた瞬間、背後から伏兵が現れた。
まさか崖を登って来たのか、予想もしていないうしろからの敵兵を確認し、いずみは思わず叫んでいた。
「危ないっ。うしろ」
すると彼は直ぐに背後の気配に気付き、襲い掛かってきた兵士を切り付け、崖に蹴り落とした。
「良かった……」
ほっと、息をついたのもつかの間、今度は敵を倒した彼が、兜越しにいずみを見つめていた。
だがしかし、いずみは鏡の向こう岸にいるのだ。あちらからこの鏡が見えているとは思えない。
けれど、濃い青の瞳は間違いなくまっすぐにいずみを見ている。
「え、あ、ええ?」
(こっちが見えているなんてことある? まさか)
あたふたするいずみに向かって、彼は剣を鞘に戻し、手を伸ばした。
「……聖女様?」
声は聞こえてこなかった。ただ、口が動いたのと同時に、頭の中に声が響いたのだ。
重い鎧を着こなしたその姿はたくましく、まるで戦争映画のヒーローのようで、いずみは間に鏡があることなど忘れて彼に見とれていた。
「私が見えるの?」
ぽつりとつぶやいたとき、彼の口が動いた。
だがその答えを聞き取る前に、頭に強く声が響いてきた。
『我が世界を救うものよ。こちらに来られたし』
その途端に、チャネルが変わったように戦場の映像はかき消えてしまった。ザザ―っと砂嵐のような音がして、映像がある一点で止まる。
……と、次の瞬間、光が強くなり、いずみはその中に吸い込まれてしまった。