聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
当然ながら、厨房にはコンロがあるのだが、日本のように便利なものではない。
魔道具といわれるもので火を起こして使うのだが、火をつけるにも、火力を調整するのにも魔力がいるらしいのだ。
(つまり、私はひとりでは火もつけられないってわけ)
「奥様は下手だな」
ジョナスは呼称として〝奥様〟と使い、敬意は払ってくれるが、言動に遠慮はない。
はっきり言われて、少しばかり落ち込む。
「実は魔法が全然習得できなかったんです」
「聖女なのにか」
(ああ、それきっつい。どうせ残念聖女ですよー)
内心落ち込んでいるけれど、悔しいので顔には出さないように微笑を浮かべてみる。
ジョナスは「へへん」と鼻を高くして、「じゃあやっぱり俺がいてやらんとな」と言った。
「へ……」
「そうだろ? 俺の知らないレシピを、教えてくれるのは奥様。作るのは俺。しっかり分業できてるじゃねぇか」
予想外に男前なひと言だ。さっき落ち込んだ心がぐんと上を向く。そして今度は心の底からの笑顔が浮かぶ。
「ジョナスさぁん。なんて優しい。惚れちゃいそうですっ」
「おいおい、俺は既婚者だぞ。お前さんに手を出したりなんかしたら、旦那様に殺されちまうよ」
「やだぁ。師匠としてってことですよ!」
きわどい会話を交わしつつ、彼の妻のスカーレットに「バカなこと言ってごめんね」と軽く謝る。
「誰も本気になんてしちゃいませんよ。こんなおっさん料理人に聖女様が惚れるもんかね」
あっさりと一蹴されていずみはほっとする。せっかく料理も出来る居場所を見つけたのだ。ここでの生活を大事にしたい。
(旦那様も、素敵な人だし)
大柄で筋肉質な旦那様は、しかして性格は真面目で実直だ。
外見から想像される俺様感は全くなく、むしろ、女性を神聖視している節がある。