聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
「じゃあ作ってみましょう。まずは型紙からつくらないと。ジナさん、ワックスペーパーを持ってきてくれる?」
こうして、お菓子の家づくりが唐突に始まった。
小麦粉と卵とバター、砂糖をまぜ、生地を作る。しばらく休ませた後、型紙にそって、生地を切り、それをジョナスに焼いてもらう。
その間にいずみはアイシングを作る。
卵白だけを取り出し、粉状にした砂糖を混ぜていくのだ。ちょっと固いなと思うくらいまで混ぜ、ワックスペーパーを折って作った絞り袋に入れる。本当はナイロン袋がいいけれど、この世界にはプラスチックという素材はなさそうだ。
「焼けましたぜ、奥さま。どうするんで?」
「冷ましてからじゃないと駄目ね。中にもお菓子を入れようか。そうだショコ! ショコはあるかな」
ショコとはこの世界でのチョコレートのことだ。一般的な貴族の茶菓子としてよく使われていて、いずみも王城にいたときに何度も出された。
いずみのつぶやきにジナが答える。
「ショコならございますよ。リドルさんの好物なんです。頼めば分けてもらえると思います」
「え? リドルさんが?」
しっかり者のイメージがあるリドルの意外な一面に驚きつつ、いずみはすぐさま彼のもとに行き、今ある分を使う代わりに、いずみの名義でどれでも好きなショコを頼んでいいから、と告げる。
もちろん、前のめりで許可をくれた。
「よし、オッケーが出たわよ。これを中に入れましょう」
「中にって?」
まだ疑問符でいっぱいのジョナスは、魔法を使ってさっさと焼いたクッキーを覚ましてしまった。どうやら、待ちきれない様子だ。
「組み立てるのよ。見ててね」