聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
*

その日、アーレスは朝から息ぴったりに働く使用人といずみを眺めながら、悶々としていた。

朝食が終わるとともに彼女は厨房にこもりきりになってしまい、ひとり自室にいつのも落ち着かなく、コーヒーが欲しいと称してわざわざ厨房まで出てきたところだ。

(いつの間に、イズミとこいつらはこんなに仲良くなったんだ。特にジョナス。馴れ馴れしく肩を叩くな、ああ、ハイタッチとは何だ。仮にもイズミは俺の妻で……)

ゴホンと咳ばらいをし、コーヒーを一口飲む。横に立つリドルからの視線に憐みのようなものを感じ取り、頬のあたりが引くついた。

「そんなに気になるのなら、旦那様もご一緒なさればいいのでは」

ついにはそんなことを言われ、危うくコーヒーを吹き出すところだった。

「……あれは何をやっているんだ」

「本日の伯爵家訪問のためのお土産づくりです。数日前からみんな集まって試作を重ねていたようですよ」

「土産……?」

「喜んでもらえるものを持っていきたいとおっしゃっておりまして。何度も作り直して頑張っておられます」

意外な理由に、アーレスはもう一度まじまじといずみを見つめた。

「じゃあ焼けたクッキーをジョナスさん、冷ましてください。スカーレットさんはこっちで組み立てを手伝ってください」

ハキハキと指示を出すいずみの声はいつもよりも活力に満ち溢れており、表情も生き生きとしている。最初に城で会った頃のオドオドした様子とは一変していた。

(こういう顔もするんだな。いいな、見ていてシャキッとする)

感心しながら見つめていると、いずみがクッキーの板を押さえ、スカーレットが何やら塗り付け始めた。

「旦那様、すみません。通していただけます?」

後ろからのジナの声に、一心不乱に作業をしていた三人が顔を上げた。

「あら、アーレス様。なにかご入用ですか?」

「いや、特には。先ほどから、イズミまで混ざって何をしているんだ」

「お土産づくりでさぁ。びっくりしますぜ、旦那様」

答えるのはなぜかジョナスだ。

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