聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
(お前には聞いていない……と言うのも冷たいしな。だが俺はイズミから聞きたいのに)
「せっかくだからアーレス様にも驚いていただきたいので、あっちで待っててください!」
笑顔でいずみに言われてしまっては、もうそれ以上強くは出れない。アーレスはすごすごと引き下がり、仏頂面で執務室の椅子に座る。リドルが苦笑しているのが余計癪に障った。
それから一時間後、そのお土産の準備とやらも終わり、外出着に着替えてきたいずみに、アーレスは目を奪われた。
今日は肩のラインにたくさんギャザーを寄せたシックな濃青のドレスだ。シンプルであるがゆえに、いずみの肌の白さが強調され、首元に光るダイヤモンドが顔周りを引き立てている。露出が少なく、デザインで魅せるドレスは、いずみによく似合っていた。
「……ジナはセンスがあるな」
王城で見たときのごてごてしさを思い出して言うと、いずみは「馬子にも衣裳ですよね」と苦笑する。
思ったより喜ばなかったので、言葉選びを間違えたのか? と一瞬思う。
(なんだかよくわからんが、まずいことを言ったのか? なんだ? マゴニモイショウとは)
「遅れてしまいますよ、さあ参りましょう」
固まりかけた空気をほぐしてくれたのはジナで、追い立てるようにふたりを馬車に乗せた。
最後にお土産のお菓子の家を入れた箱を大切そうにかかえてジナも乗り込み、いずみの隣に座る。
今日はジナも一緒に行くのだ。荷物もちと称して、まだこの世界の常識を知らぬいずみを助けるための配慮だ。