聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~

 同じ王都にありながらも、バンフィールド伯爵家は王城にほど近い一等地にある。
敷地内に入ってからも馬車はしばらく走り続け、庭の広さをうかがわせた。
いずみは自分の心臓が緊張で高鳴っているのを感じる。

玄関前に横付けされた馬車を降りると、使用人たちが出迎えに勢ぞろいしていた。
玄関で、待ち構えている貴婦人がどうやらアーレスの母親のようである。
年齢は五十歳を超えているくらいだろうか。目尻やほうれい線に多少皺が見られるが、アーレスに通じるところのある美形だ。やせ形でほっそりとしていて、ビリジアンのドレスがよく似合っている。

彼女はにこやかにアーレス一行を迎えていたが、やがて近づいてくると、いずみをまじまじと見つめ始めた。

(あれ? この視線は歓迎というより……)

急速にアーレスに出会う前の半年が思い出される。出会う人すべてにミヤさまと比べられ、失望のまなざしを向けられたあの頃の。

「……っ」

途端に、足がすくむ。
先に一歩行ってしまったアーレスがいぶかし気にこちらを振り向いた。

「イズミ……?」

「奥さま、どうされました?」

後ろについてくるジナがこっそり耳打ちする。

「あ、……私……」

動けないいずみに、周囲の使用人がざわめきだした。その声に、ますます体が震えてくる。

(ダメだ、私。家の中では平気だったのに。ちょっと外に出ただけでこんなになるなんて……)

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