貴方の事なんて大嫌い!
取り残されたニコラスは、目を見開いたまま微動だにせず、ただティリアーナの去った方をじっと見つめていた。ニコラスの頭には、涙目で飴色の目を吊り上げて、ドレスの裾を翻した彼女の表情が焼き付いて離れなかった。そして、あの捨て台詞も耳にちゃんと残っている。
ほら見ろ、とジークフリードはニコラスを見て肩を竦める。全く困った友人達だとも。
ニコラスは名前の分からない焦燥に駆られていた。普段知っている、あの笑った顔も、拗ねている顔も、得意げな顔も、少し不安げな顔も、どれにも当てはまらない表情。どうして彼女が怒ってしまったのか分からない。
「ティリアーナ……」
ぽろりと息を吐くように零した彼女の名前を拾ったジークフリードは、ニコラスの肩を慰めるように叩いた。
「………ニカはよく考えた方がいい。ティリの事も、その胸の内の名も理解するまで」