クローゼット番外編~愛する君への贈り物
この町は、薬で有名な町だ。
ここに住む大半の者が、薬に関わっている。
近くには珍しい薬草がたくさんあるし、清らかな水の湧き出る泉もある。
それに、その家に代々伝わる秘薬の調合法だってある。

俺の家もそうだった。
薬の調合法の書かれたボロボロの本があり、母さんはそれを命よりも大切にしていた。
エイダンの言う通り、俺はまだ幼い頃から、薬草のことを良く知っていた。
母さんと一緒に薬草摘みに行くうちに、覚えてしまったのだ。



「おまえは、きっと町一番の薬屋になれるよ。」



母さんは、良くそんなことを言っては、俺の頭を撫でてくれた。
幼い頃からそんなことを言われ続けたせいか、俺も将来は薬屋になるんだと思ってた。



母さんは、体が弱かったけれど薬の調合の腕が良く、そのおかげで高価でも母さんの薬は良く売れた。
だから、父親がいなくても、それほど苦しい生活をすることはなかった。
父親は、俺が物心付いた時には、すでにいなかったのだ。



「ねぇ、母さん…うちにはどうして父さんがいないの?」



俺の質問に、母さんはただ困ったような顔をするだけだった。
きっと、それは訊いてはいけないことなんだ。
俺は、何度かその問いをした後、ようやくそのことを理解して、その後はもう訊かなくなった。
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