クローゼット番外編~愛する君への贈り物
(覚悟して出たはずだったのに…)



台所のテーブルの上には、マグカップとなんだかよくわからないしなびた食べ物の残骸があった。
多分、果物だろうと思う。



俺は、窓を開け放った。
心地良い風が、家の中の淀んだ空気を入れ替えてくれる。



俺の部屋のクローゼットは半分扉が開いていて、ベッドの上には服が何枚か出しっぱなしになっていた。
急いでいたのだろうか?
それにしても、なんとも始末が悪い。



(あ……)



そうだ。思い出した。
あの時…近々、モルド行きの船が出るって聞いて、それで慌てて家を出たんだ。



気持ちが揺らぐのが怖くて…
それで、とにかくモルド行きの船に乗ってしまおうと、その一心で、慌ただしくここを発ったんだ。



その日のことが、不意に頭によみがえった。
それと同時に、何とも言えない切ない感情もよみがえった。



(ミシェル……)



心の中の一番奥底に封印していたその名前…
どんなに忘れたくても忘れられない人…
向日葵みたいに無邪気な明るい笑顔…



あぁ、俺は今でもこんなにミシェルを愛していたのか、と、
いたたまれない気持ちになった。
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