クローゼット番外編~愛する君への贈り物
(あった……)



トーマスさんの店も、やっぱり以前と少しも変わっていなかった。
店を目の前にして、ちょっとばかり緊張して立ち止まる。
トーマスさんとは、特別仲が良かったわけではないが、顔馴染みではあった。
あまり良く喋る人でも、愛想の良い人でもなかったけど、ちょっとした会話なら何度も交わしたことがある。
だけど、もう俺の事なんて、忘れてるだろう。



店に入り、ランプの油とちょっとした食べ物を手にした。
店番をしていたのは、トーマスさんではなかった。
一度も会ったことのない中年の男性だった。



却ってほっとした。
トーマスさんが俺のことに気付いたら、どこにいたのかとかいろいろ訊ねられたかもしれないから。
出来ることならそういうことは詮索しないで欲しい。
面白い話でもなければ、人に誇れるような話でもない。
むしろ、恥ずかしいことばかりだから。



薪がないが、今夜は、買って来たものと持って来たもので済ませれば良い。
薪は明日拾いに行こう。
そんなことを考えながら、俺は家に戻った。
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