The Last -凶悪-
「お・・・おぉ・・。
ちょっと待ってね。」
席を立ち上がったミライさんが、
ティッシュ箱を差し出してくれた。
もう帰るだけだから別にいっか・・。
2枚3枚と取って、
溢れてくる涙をアイシャドウごと拭う。
「・・・・シクシク・・・スッ・・スッ・・。」
「あ~マユちゃん・・。これ・・俺の父さんから聞いた話なんだけどね。」
「・・・?」
「トヨタ自動車ってあるでしょ?
世界のTOYOTA。」
「・・・・急にどうしたんですか?」
「まぁまぁ聞いてくださいな。
そこに入社した、
ある一人の男の話なんだけどね。
彼は“技術者”として、
“自動車業界に革命を起こすほどのエンジン開発をしたい”
っていう大志を抱いて入社したらしいんだ。」
「・・・・・・・・。」
「でも・・彼が入社後に配属を命じられたのは“テストドライバー”の部署だった。
開発中の車だったり、
色んな車の運転席に乗り込んで、
急な勾配の山道とか、目の前が見えないほど土砂降りの雨道とか、
命の危険を感じるほどアクセルを目一杯踏み込んだ超高速運転とか。
あらゆるテストデータ収集の為に、
彼は来る日も来る日も車に乗り続けた。」
「・・・・・・・・・。」