The Last -凶悪-


―――――― 


“カラン カラン”


「いらっしゃいませ。

・・あぁ枝松社長の愛人様。
今日はお一人ですか?」


「・・・・・・・・・・・・。」


「どうされました?」


「今日は・・氷室さんは・・?」


「あぁ・・すみません。

コウスケはなんか大学のゼミ?か何かが忙しいみたいで最近はお休みしてます。」


「・・・大学・・・。」


「どうぞこちらへ。

恐れ入りますが、今日はこの前みたいにご無理なさらないでくださいね。」


「あの・・氷室さんって大学生なんですか?」


「はい。来年成人式の子ですよ。」


「・・・・・・・同い歳・・・。」


「見た目と年齢のギャップが激しいですよね。

落ち着いているというか・・
覇気が無いというか・・。

それでもバーテンとしては良いもの持ってますので贔屓にしてやってください。」


「・・・・・・・・・・・・・・。」






“だってぇ今日も吐き気を催すブスなんだもん”

“びっくりしたよぉ?
私、ホントに吐いちゃったんだから”



“立派にクールなブスな子になって良かったよ”

“愛人・・様でございますか。ハハッ!”




「・・・・・・・・・・・・・・・。」


「・・どうされました?」





“ご安心ください。閉店までに快方しなかったらおぶってお送りします”




「家族以外で・・ずっと私の目を見て話してくれた人・・初めてです。」




たった一夜限りの出会い。


次にこのBarを訪れた時は、
氷室さんはお店を辞めた後だった。


お父さんが亡くなって、

大学を中退して地元に帰っていったとマスターさんが教えてくれた。


“父の死”によって人生が動くという共通点にもどこか親近感を覚え、


20歳の夜に出会った氷室さんの事を、
私はずっと忘れられずにいた。































< 146 / 218 >

この作品をシェア

pagetop