The Last -凶悪-
目の前に差し出されたカクテルグラスにも、
それを促すマスターさんにも視線は向かなかった。
客の私に会釈をしてカウンターの奥へと入っていった・・男の人・・・・。
「あの・・さっきの人は・・?」
「あぁ・・この歳になると私一人だけでは何かとご不便かけてしまうんで、
バイトという形で手伝ってもらってる子です。」
「・・・・・氷室さん・・・。」
「え・・・・。」
「氷室さんですか・・?」
「・・コウちゃんのお知り合いの方でしたか。少々お待ち下さい。」
マスターさんが奥へと引っ込んだ。
私一人だけとなった店内。
柔らかなクラシックと、チラリと見ただけで一気に蘇った20歳の出会いに、
さっきまでの高笑いが一瞬で過去の記憶へとなった。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・。」
しばらくして・・奥から氷室さんが再び顔を出した。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「・・。」
・・って・・あれはもう十年以上前・・。
覚えてるわけ・・ないよね・・・。