The Last -凶悪-
――――――
“カラン カラン”
「・・・いらっしゃいませ・・・。」
扉を開けると氷室以外にも客はいなくて、
カウンターに立つ若い男が覇気の無い声で俺を見た。
「まだ営業時間ですか?」
「・・はい・・。
ウチは朝までやってますので・・。」
「それは良かった。
今日は新規開拓しようと、
来たことない場所で梯子酒してたので。」
「そうですか・・どうぞこちらへ・・。」
「こんな路地裏にまさかBarがあるなんて思わなかったです。」
「・・・松阪です・・。
今後とも宜しくお願いします。」
「あ、俺、高良健吾っていいます。」
「・・・・・・俳優の方ですか?」
「いやいや違いますよ。ただの同姓同名。
おかげで職場ではめちゃくちゃイジられるけど。」
「・・・ここの常連様の中にも“木村拓哉”さんという方がいて、
同じように学生時代は苦労なさったそうです。」
「まぁでもメリットもありますよ。
SNSだろうがなんだろうが、
ネットで検索されても出てくるのは本家の人達ばかりだから。」
「・・下手に素性を暴かれる心配はなさそうですね・・・。」
「このお店は松阪さんお一人で?」
「はい。3年程前にオープンしました。」
「まだお若そうなのにこんなオシャレなお店持つなんて凄いなぁ。」
「知り合いの方に、昔バーテンをやっていた人がいたので・・
その方の紹介もあって、
ご縁があっただけです・・。」
「・・あ、松阪さん、
ここって写真撮影大丈夫ですか?」
「・・えぇ・・勿論大丈夫ですよ。」
「インスタに載せても?」
「・・・宣伝になりますので・・
むしろありがとうございます。」
「あ、じゃあすみませんけど、
写真撮ってもらってもいいですか?」
ポケットからスマホを取りだしてカメラを起動する。
店内の写真を何枚か撮った後、
それを松阪に渡した。
「・・いきますよ・・はい・・。」
「ありがとうございます。」