The Last -凶悪-
『神野くん。』
「・・山本さん、少しお待ち下さい。
はい、何ですか?」
『山本氏の証言で気になる点があります。』
「多分俺も同じ事を疑問に思ったからちょっと待って。」
『それは失礼しました。』
「誰かとお話してるんですか?」
「あ、はい。ちょっと上司と通信してて。
ところで山本さん。
先程の証言でお伺いしたい点が。」
「なんでしょうか?」
「犯人は、“マスク”をつけて、
“帽子”を目深に被っていたと。」
「はい。ニット帽のようなものだったと思います。」
「という事は・・視界を奪われるまで数秒の瞬間、
相手の“目元”しか見えてなかったということですよね?」
「・・・はい・・・。」
「どうしてそれだけで・・
30~40代の男だと思ったんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
「・・・“声”・・です。」
「声・・?」
「あの日、アルバイトからの帰り道、
後ろから突然声を掛けられました。
“あのすみません” “ちょっとすみません”
・・男の声でした。
私の体の中で唯一無傷だったこの両耳が、
今でもあの声を覚えています。」
「・・・なるほど・・・。
でも“自分と同年代”だと判断するのに、
声だけでは弱すぎませんか?」
「当時の刑事さん達にも似たようなことを言われました・・。
しかし神野さん・・。
これは“直感”としか説明出来ません。
あの“声”は・・若者でも無く、
年配でも無かった気がしてならなかったんです・・。」
「・・・分かりました。
大丈夫ですよ山本さん。
俺もそういう“勘”は結構信じるクチなんで。」
「ありがとうございます・・。」