あなたの愛に包まれて
千晃は小さく深呼吸をしてからその重役の方へ視線を向けたまま話始めた。

「企業の規模縮小の具体案が記されていないこの書類は不透明な部分が大きすぎて、財閥を背負うものとしてリスクが高すぎ耳を傾けることができません。それから福山のしりぬぐいのようにおっしゃいましたが、福山の技術を破格で神崎のものにすることができたのはあの事件が一つのチャンスとも言えました。現に神崎が今日まで生き残れたのはあの事件で神崎の名が売れたことも要因と考えています。」
千晃の言葉には説得力があった。
「大崎さんは福山の人材を切るとおっしゃいましたが先日大崎さんの代表を務める運送会社を訪問しました。その際に気になる点があり、勝手に調査させていただきましたが、こちらで不透明な取引をいくつか見つけました。その取引の担当者は神崎の人物です。それから、明らかに傲慢な勤務態度の社員の名前を内部調査したところ、神崎の人物でした。」
剣持がすかさずその調査資料を役員たちに配布した。
「この件に関して、まだ福山の人材どうこうや、自身の不透明な取引よりもほかの企業の経営規模縮小について語っている場合なのでしょうか。」
千晃が不敵な笑みを浮かべると大崎は話にならないとごまかしながら会議室を出ていこうとした。
「ちょうどよかった。後任の重役がすでに何人も候補に挙がっています。一番初めに降りるのはあなたでしたか。大崎さん。」
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