あなたの愛に包まれて
「母さん」
匡祐が呼ぶと母が振り向いた。
「来てくれたの?」
「あぁ。どう?体調は」
「大丈夫よ。あなたこそ、大丈夫なの?」
「へ?」
匡祐の母は酸素を鼻から送り込む管をつけ点滴をしていた。
唇の色は黒に近い。
すっかり痩せてしまった母は匡祐を見て優しく微笑んでいる。
「学校は?大丈夫なの?勉強してるの?」
「・・・あぁ。勉強してるよ。」

母は2年前から痴ほう症と診断され、記憶があいまいなことが多かった。

最近では匡祐のことをまだ高校生と思っているらしい。

「ちゃんと勉強しないと。家のことは心配しないで。大学に行って、いい会社に入って、ひもじい思いをしなくてすむようにしなきゃね。母さん、お前には苦労ばかりかけたから。」
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