あなたの愛に包まれて
匡祐は骨と皮のように細くなった母の手を握った。
「大丈夫だよ。母さん。俺頑張って、母さんにも楽な思いさせてあげたいんだ。」
「母さんのことはいいのよ」
「だめだよ。俺の夢だからさ。母さんと二人で旅行したいな。世界中。」
匡祐の言葉に母は自分の手を匡祐の手の上に重ねた。
「優しい子に育ってくれて、母さん、幸せよ。」
母の笑顔に匡祐は泣きそうだった。

大切な命を守るために自分は魂を父に、福山財閥に売った。

後悔はしていない。

それでも押し殺せない苦しみがある。

苦しみに押しつぶされそうなとき、逃げ出しそうなとき、匡祐は母や力のもとへ向かった。

そうするたびに自分の腐ってしまいそうな心が洗われるような気がしていた。
そうでもしないと暗闇に自分の心が染まってしまいそうで怖かった。
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