あなたの愛に包まれて
そんなことを思っていた時の婚約話で、正直相手を利用すれば財閥から抜け出せる日も近づくかもしれないと考えていた。相手には申し訳ない。でも、自分の心はなにも感じない。死んでしまったのだと割り切ろうと匡祐は考えていた。

それなのに、神崎千晃という人を知れば知るほど、自分と同じ目をしていることや窮屈そうな表情が気になって、目がひきつけられて仕方なかった。不器用なのにまっすぐな性格で、放っておけない。

無邪気な顔を見れば胸が痛いほどに高鳴る。真剣に見つめられればなんでも答えたくなる。涙を見れば抱きしめたくなる。笑顔を見ればその笑顔を守りたくなる。


利用するなんてできない・・・。

千晃を知るほど、自分の考えに心が張り裂けそうなほど痛んだ。

黙って千晃をだますようなことができなくて、匡祐は千晃にすべてを打ち明けた。
自分の言葉が千晃を傷つけるかもしれない。もう笑顔を見せてくれなくなるかもしれない。

それでも黙ってはいられなかった。

< 66 / 270 >

この作品をシェア

pagetop