あなたの愛に包まれて
『コンコン』
翌日病室の扉がノックされた。
「はい」
無精ひげをはやしたままの匡祐が返事をすると扉があいた。
匡祐が振り向くとそこには千晃が立っていた。
「助川さんから事情をきいて慌ててきました。力さん、大丈夫なんですか?」
その姿がまぶしくて、闇に落ちそうになっていた匡祐の心に光が見えた。
「肺炎で一時は危険でした。今は落ち着いてきています。」
「よかった。近くへ行ってもいいですか?」
「もちろん」
匡祐が力の横の椅子から立ち上がると千晃はゆっくりと力のそばに近づいた。
「大変でしたね。」
ささやくような声で力に話しかける。

「これ、不格好ですけど・・・。」
そう言って千晃は自分のカバンの中から金のつるを出した。
「生まれて初めて折ったんです。気に入っていただけたらいいんですけど・・・。」
力に話しかける千晃を匡祐はまぶしそうに見つめていた。
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