あなたの愛に包まれて
「千晃さんはっ？」
息を切らせながら近づく匡祐に剣持は力なく微笑んだ。
「偽物のナイフでした」
剣持が匡祐に事件の内容を説明した。
「神崎財閥の会社をリストラされた社員の犯行でした。精神疾患を患っていて仕事へもほとんど出勤していない元社員は解雇されて会社を恨みお嬢様を狙ったようです。」
「千晃のけがは？」
「お嬢様は血のりのついた偽物のナイフをぶつけられたので、けがはあざ程度です。」
「よかった・・・」
匡祐が自分の膝に手をつく。
「しかし」
剣持の言葉に匡祐は再び顔を上げた。

「目の前で犯人が自分の首にナイフを刺して自殺したんです。」
「目の前で？」
「かなりの出血でした。その一部始終をお嬢様は間近で見て、男の血がお嬢様を赤く染めました。」
その状況を想像するだけで匡祐はぞっとした。
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