あなたの愛に包まれて
「いやっ!きゃー!」
千晃が突然叫び声をあげながら目を覚ました。
剣持が慌てて病室に飛び込んでくる。
「お嬢様!」

剣持が病室に入り目にしたのは大きな体の匡祐に強く強く抱きしめられ、その胸の中で涙を流す千晃の姿だった。

剣持はその姿にそっと病室を出た。

千晃が幼いころから一人で歩いてきたことを知っている。
どんなにつらいことがあっても、悲しいことがあっても、千晃が誰かのぬくもりを求めても、誰からも千晃はぬくもりはもらえなかった。支えてももらえなかった。

一人でしくしくと涙を流す千晃をずっと見てきた。
すぐ隣にいながら自分には抱きしめることなど許されなかった。

ずっと千晃を支えてくれる誰かの存在を剣持は見つけてあげたいと思っていた。
千晃を愛し、支え、守ってくれる存在。抱きしめてくれる存在。

匡祐に抱きしめられる千晃は剣持が幼いころしくしくと一人で涙を流していた千晃の姿と重なって見えた。
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