25年目のI love you~やっぱり一緒に・・・②~
父から声を掛けられたのは、明日は自宅に戻るという日の夕方だった。


仕事を完全にリタイアしてから、かれこれ8年になる。しかし、この人の辞書に「ジッとしてる」という文字は恐らくはないのだろう。


囲碁、ゴルフから麻雀までの多彩な趣味。更には自治会の役員、そして本人が何よりも楽しみにしている毎日の地元小学校の学童擁護員活動・・・。


「母さんへの恩返し」と称して、2人で旅行も毎月のように行ってるようで、まぁ、当分ボケる心配はなさそうと安心と感心をしたんだけど、お陰でゆっくり話をする暇もないくらいだった。


そんな父が、母と共に夕飯の買い物に出ようとした私を呼び止めた。少し話そうかと言う父の言葉に頷いた私は、母が出掛けるのを見送ると、書斎で父と向き合った。


「明日、帰るんだって?」


「うん、突然押しかけて、1週間もすみませんでした。」


「少しは骨休め出来たかい?」


「お陰さまで。」


夫からは、少し疲れてるようなので、しばらく実家で骨休めさせてやって下さいと連絡があったそうだ。夫もやはり、本当のことは告げられなかったみたいだ。


「1週間も留守をして、隆司くんは大丈夫だったのか?」


「まぁね。」


「そうか。私だったら、母さんに見放されたら、途端に露頭に迷うがな。」


と言って笑う父。


「別に見放したわけじゃないよ。」


内心ドキリとしながら、そう返す。


「何があったが知らんが、3日もすれば隆司くんが恋しくなって、飛んで帰るか、隆司くんの方から迎えに来るかと思っていたが、そんな様子もなかったんでな。」


と言った父の顔からは笑顔が消えていた。
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