ペトリコール
その日の帰り、校門を出る頃には雨がポツリポツリとまた降り始めだした。

「二葉、傘持って来てないの？」

「うん、朝雨降ってなかったから」

「降ってなかったっけ？」

「うん、うちは降ってなかった」

また、嘘をついた。
朝、空はどんよりと曇っていたし雨も降ったりやんだりを繰り返していた。

だから、傘を持って行こうとしたけどこの間、あじさいの花を触って服を汚したからあの人が
傘をさしても濡れて帰ってくるんだから傘なんか必要はないと私の白い傘を取り上げた。

濡れるのはかまわない。
だけど、濡れたらまたあの人は私を叱る。
だから、傘を返して欲しくて玄関に立ち止まっていた。

「さっさと行けよ！本降りになってずぶ濡れになりてーのか！？目障りだ、早く出て行け」

無造作に傘を脇に投げつけ冷蔵庫からビールを取り出していた。

仕方ない、行かない選択はない。
ここで立ち止まっていたら殴られるだけだ。
雨がこれ以上強くならない事を祈るしかない。




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