ペトリコール
神様はいるんだと思う。

一秒でも早く家にたどり着きたいのに、そうはさせてはくれない。

あじさいの花が道に落ちている。
誰かにもがれたのか茎から折れて落ちている。

紫色の花びらは雨に打たれて所々茶色に変色していた。
凛と咲いていたのに翼を失った鳥のように
地面に這いつくばっているように見えた。

そのまま通り過ぎるのは可哀想に思えたけれど、
立ち止まっている時間はない。
雨は強くなる一方。

踏みつける事はできずそっと避けて通ろうとした時、足くびを捻ってしまった。

捻った拍子によろめいてあじさいの花が咲く家の柵に手をついて何とか転ばずに済んだけれど柵が曲がってしまった。

どうしよう…
季節ごとに綺麗な花を咲かせている。
毎日、通っているからそれは知っている。
だけど、どんな人が住んでいるのかは見た事がない。
人の家のものを壊してしまって知らんぷりはできない。

あじさいの向こうの家の方を見渡してみたけど人の気配はない。




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