ペトリコール
「何してんの?」

ふいに声をかけられ、身体がピクリと悲鳴をあげる。

「…」

あの人の声じゃない事はわかっているけれど、
男の人の声に恐怖を感じてしまう。

「迷子?」

「ち、違う」

「傘さしてるのに、びしょ濡れだけど?」

驚かされた事と、されたくない指摘をされた事に
苛立ちを覚えたけどすぐに悪い癖がまた出たとその黒い感情を飲み込む。

あの人は私にいつも言う。

「なんだ、その目は!文句があるなら言え!」

怒られた時、手を挙げられた時、反抗したい気持ちが起きる私がいけない。
自分の悪い所を認めず、反抗心を抱く私が悪い。

私に起こる怒りや不服や苛立ちは、自分勝手なワガママな感情だから治さなきゃいけない。

それを思い出しふいに声をかけてきた人に頭を下げた。

「ごめんなさい、失礼します」

頭を下げたまま、私は歩きだす。
地面を流れていく雨を見ながら、私が見る景色は雨模様ばかり。
空だけじゃないんだと思うと目頭が熱くなる。
空を見上げても、俯いても見えるの涙雨。



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