ペトリコール
つかの間という言葉がぴったりだった。

久しぶりに触れたお母さんの温もりはあの人の怒号で断ち切られる。

「甘やかすなと言ってんだろ!!」

手の甲でお母さんを叩くあの人は怒りに満ちている。

最悪の事態になった。
この表情をしたあの人は歯止めがきかない。

「違います、違います」

叩かれた頬を抑えお母さんは狼狽えている。

あの人の怒りが向くのは私だけじゃない。
あの人のいう事に従わなければお母さんにも
矛先がむく。

そして、何より私を庇った時にその矛先に向かう怒りは大きい。

「このクソガキを生んだお前のせいだろ!
せっかく買ってやった服を汚しやがって。
俺の稼いだ金で買ってやった服を俺が稼いだ金で払う電気や水道を使って綺麗にさせるこの金食い虫をお前は庇うのか!」

狼狽え震えるお母さんは壁際まで後ずさりする。

いつ飛んでくるかわからない拳や蹴りに身構えながらひたすら違いますと謝っている。


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