ペトリコール
あの人が私に初めて手を挙げた時に、お母さんは
身を呈して守ってくれた。

何が原因だったかはあまり覚えていない。
ただ、紙パックのオレンジジュースをあの人がお母さんに投げつけていたことだけは覚えている。

可愛いキャラクターの書いたオレンジジュースからまだ残っていた中身が飛び出しお母さんの髪に飛び散っていた。

お母さんは目を見開いてあの人をみつめていた。

あの人は拳を握りしめ怒りで体を震わせながら
お前が反抗するからだと私を睨みつけた。

私は震えるお母さんを見つめていた。


複雑なトライアングルの空気を支配したのは
あの人だった。

俺に逆らう事は許さない。
逆らうならばこの家を出て行け、そして自分で
生きていけと私に言い放つ。

優しくて、面白くて、私をお姫様にしてくれた
あの人はその日を境にいなくなった。
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