嵐を呼ぶ噂の学園④ 真冬でもあったかいのは愛です!編
彼らと入れ違いで白鷺くんが到着したが、わたしは入り口で引き止めた。


白鷺くんも何かを察して、黙って頷いた。



「はーちゃん、寒かったよね。ごめん、すぐ助けに来れなくて」



桐生さんは自分の上着を脱いで、藤宮さんの肩にかけた。



「あなたのコートなんて要りません」


「要らないって言われても俺は置いてくよ。死なれたくないから」



藤宮さんは呆然と前を見つめていた。


そんな藤宮さんを温かく優しい眼差しで見つめる桐生さん。


桐生さんがこれから何を言おうとしているのか、わたしにはなんとなく分かった。


あの日と同じ決意を感じたから。



「俺、1月1日に藤宮羽鳥を卒業します宣言をしたんだ。それなのに、勝手に助けに来て本当にごめんなさい」



藤宮さんは桐生さんの目を見て黙って聞いていた。


初めて2人が向き合った瞬間だった。



「俺、今まで藤宮羽鳥を好きでいられて幸せでした。ずっと片想いだったけど、俺は羽鳥を好きになれたことを後悔してない。羽鳥を想ったから、こんなに強くなれた。だから、すっごく感謝してる。本当にありがとう」


「寒いので、話は簡潔にお願いします」



アラスカの気温よりも冷たい一言。


氷点下何度くらいだろうと知りたくなる。



「あっ、ごめん。じゃ、最後に1つだけ聞かせて。羽鳥の17年の人生の中で俺を1マイクロでもいいから好きになったこと、あった?」


「...ございません。いつもうざったかったです」



そう...なんだ。


いや、本当に?


本当にそうなの?


藤宮さん...


違うよね?


違うって言ってください。


桐生さんが...


桐生さんが...


可哀相だ。


惨めだ。



「そっか...。そうか...。そうだったか...。あはは!そっかそっか...、はーあ。...バカだな、俺」


「はい、バカです」



前髪を触る藤宮さん。


でも、なんか様子がおかしい。


なんか、必死に感情を堪えようとしているように見える。



「じゃ、本当に最後の一言。お誕生日おめでとう。これ、忘れ物。大事なスプレーでしょ?あと、きっと要らないと思うけど、誕生日プレゼント。要らないなら捨てても構わないから。んじゃあ...バイバイ。...はーちゃん」



2月14日。


藤宮さんの誕生日だったんだ。




「あっ、星名さん、白鷺くん。向こうから来るのは森下先輩と園田さんかな?」


「あの...桐生さん...」


「ああ見えてさみしがりやな藤宮羽鳥を、これからもよろしくお願いします」



桐生さんはそう言い残し、静かに去っていった。


最後の最後まで藤宮さんを想っていた。


悲しげな後ろ姿はいつまでも忘れられそうにない。


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