嵐を呼ぶ噂の学園④ 真冬でもあったかいのは愛です!編
藤宮さんと森下先輩と分かれ、3人で歩いていると、白鷺くんが突然大声を出した。



「ああ!」


「何よ、急に!」


「あそこ見て!青柳先輩っす!」



園田さんと2人で目を合わせてから彼の指差す方を見ると、確かに青柳くんらしき人がいた。


道路を挟んだ反対側を自転車を押しながら歩いている。


なんだか久しぶりだ。


わたしも青柳くんも、どちらからともなく距離を取った。


そちらの方が色々と都合が良かったから。


少し...寂しいけど。


見てしまうと、ずぎゅんと心が痛いけど。


これがわたしのした選択の結果だから受け入れるしかないのだ。



「最近青柳先輩にラインしても既読にはなるんすけど、返信が全く来なくて...。汐泉さんとなんかあったんすかね?」


「なんだか昔に戻った感じする。くっら~いオーラが全身から漂ってるわ」


「こと先輩なんか知りませんか?」



へ?


わたし?


わたしに聞かれても...。


あの日以来話してないし、何も知らない。


やっぱりあの時のあの言葉で傷付いてしまったのだろうか。


それだったらまずい。


覚悟していてもやっぱりメンタルに来てしまうものなのかな...。



「こと先輩?」


「あっ...えっと...そのぉ、わたしは何にも知らないです。青柳くんとはしばらく会ってませんから」



わたしがそう言うと、白鷺くんは合点がいったのか「それっすよ、それ!」と言った。



「え?」



「青柳先輩、こと先輩と会ってないから調子悪いんすよ。青柳先輩にとってこと先輩は、汐泉さんとは違う意味で大切な人なんじゃないんすかね、きっと」


「未悠、それ、言えてる。あたしも同感。波琉、ことちゃんといるとちゃんと感情表すんだよね。一緒にいて居心地が良い相手っているじゃん。
波琉にとっては、それがことちゃんなんだよ」



でも...


それでも...


わたしは、青柳くんの"友だち"だから。


友だち以上になれないから。


親友にも、それ以上の関係にもなれないから。


今のわたしにとってその事実は...トゲだ。


突き刺さると、ずきんと痛むんだ。


痛みが全身に伝わって何も出来なくなる。


だから、わたしは...青柳くんに何も出来ない。


何もしてあげられないんだ。



「ことちゃん?」



青柳くんは自転車をかったるそうに押している。


さっきから乗ろうとしない。


またパンクしたのだろうか。


出会ってすぐに一緒に直しに行ったのを思い出す。



―――2人は...恋人?


―――いえいえ!


―――ただの知り合いです!



懐かしいなぁ。


出来るならあの頃に戻りたい。


またあんな風に笑い合えたらいいのに...。



「あっ!良いことを思いつきました!夕飯、わたしの家でたべませんか?もちろん、タダでご馳走しますので!」


「えっ、いいの?」


「はい、もちろんです!」


「じゃあじゃあ、お言葉に甘えて...」


「本当に大丈夫?」



わたしは脳内の邪念を振り払うように、激しく首を振った。



「じゃ、あたしも行こっかな」


「父がとても喜びます。ささ、行きましょう!」



気付いた時には青柳くんの姿は無かった。


汐泉さんに会いに行ったのだろう。


うん。


それで良いんだよ。


それで...いい。


わたしは嬉しそうにじゃれあう2人を後ろから見守りながら家路を歩いた。


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