嵐を呼ぶ噂の学園④ 真冬でもあったかいのは愛です!編
「お父さん、ただいま」
「おう」
お父さんは5時半からの夜の部に備えてお昼ご飯とも夕飯ともとれないご飯を食べていた。
わたしはお父さんの横を通り、台所に行って弁当箱を洗い、お茶の入ったコップを2つ持ってちゃぶ台に向かった。
「あのねお父さん、話があるの」
お父さんは何も言わない。
お茶をずずずとすすりながら飲んでいる。
熱いお茶でもないのになぜこの飲み方なのかよく分からないが、昔からこうやって飲んでいた。
わたしには色濃く印字されていても、きっと姉の記憶には残っていないだろう。
姉にいじめられてこの傷を負ったとは知るよしもなく、ここにいてこの態度を取っている。
わたしは、お父さんがいなければこうして暮らして来られなかった。
本当は心配かけたくないんだよ。
だからお願い。
これからわたしが何を言っても、わたしを受け入れてください。
「お父さん、落ち着いて聞いてね」
お父さんは黙って頷いた。
「わたし、1ヶ月前からいじめられてたんだけど、先生も友達もわたしの味方をしてくれて今は全然大丈夫だから」
「そうか」
「だから心配しないでね。こんな傷負っても平気だから。あともう少し経てば傷も治ってお店の手伝いとか出来るようになるから。だから...大丈夫」
お父さんが顔を上げ、わたしの目を真っ直ぐ見た。
大きな手が肩に乗る。
「湖杜、気付いてやれなくてごめんな」
「お父さんのせいじゃないよ。お父さんは何にも悪くない」
「いや、一緒に住んでいて毎日顔を合わせているのになんにも気付いてやれなかったんだから父親失格だ。それなのに俺は、先生を怒鳴ってしまった...。本当に申し訳ない」
お父さんが頭を下げた。
泣くのをじっと堪えているのか、ちゃぶ台に乗った右手が強く握られ、小刻みに揺れていた。
こんなお父さんを見るのはあの日ぶりだろうか。
母がわたしを捨て、姉を連れて出ていったあの日もお父さんは頭を下げて必死に謝っていた。
女心には疎いお父さんだが、決して悪い人じゃないんだ。
むしろ、真っ直ぐで優しくて男らしくてたくましい父親だ。
わたしはそんなお父さんが父親で良かった。
娘のためにきちんと人を叱れて、自分を省みる父親で良かった。
「お父さん、謝らなくていいよ。その代わり笑ってよ。お父さんがバカでかい声で笑ってなきゃわたしも調子狂っちゃうよ」
「そうだな...。はは...はっはっは...!」
無理やり笑うお父さんはなんだか可哀想だったけれど、こうでもしなければずっと陰鬱な空気が漂ったまま生活することになっていたかもしれない。
そんなの嫌だから。
わたしはそんな風にこれから先も生きていきたくないから。
だから、無理やりでも笑わせ、わたしも笑うんだ。
その晩、いつもと変わらず、父は店に立ったのだった。
「おう」
お父さんは5時半からの夜の部に備えてお昼ご飯とも夕飯ともとれないご飯を食べていた。
わたしはお父さんの横を通り、台所に行って弁当箱を洗い、お茶の入ったコップを2つ持ってちゃぶ台に向かった。
「あのねお父さん、話があるの」
お父さんは何も言わない。
お茶をずずずとすすりながら飲んでいる。
熱いお茶でもないのになぜこの飲み方なのかよく分からないが、昔からこうやって飲んでいた。
わたしには色濃く印字されていても、きっと姉の記憶には残っていないだろう。
姉にいじめられてこの傷を負ったとは知るよしもなく、ここにいてこの態度を取っている。
わたしは、お父さんがいなければこうして暮らして来られなかった。
本当は心配かけたくないんだよ。
だからお願い。
これからわたしが何を言っても、わたしを受け入れてください。
「お父さん、落ち着いて聞いてね」
お父さんは黙って頷いた。
「わたし、1ヶ月前からいじめられてたんだけど、先生も友達もわたしの味方をしてくれて今は全然大丈夫だから」
「そうか」
「だから心配しないでね。こんな傷負っても平気だから。あともう少し経てば傷も治ってお店の手伝いとか出来るようになるから。だから...大丈夫」
お父さんが顔を上げ、わたしの目を真っ直ぐ見た。
大きな手が肩に乗る。
「湖杜、気付いてやれなくてごめんな」
「お父さんのせいじゃないよ。お父さんは何にも悪くない」
「いや、一緒に住んでいて毎日顔を合わせているのになんにも気付いてやれなかったんだから父親失格だ。それなのに俺は、先生を怒鳴ってしまった...。本当に申し訳ない」
お父さんが頭を下げた。
泣くのをじっと堪えているのか、ちゃぶ台に乗った右手が強く握られ、小刻みに揺れていた。
こんなお父さんを見るのはあの日ぶりだろうか。
母がわたしを捨て、姉を連れて出ていったあの日もお父さんは頭を下げて必死に謝っていた。
女心には疎いお父さんだが、決して悪い人じゃないんだ。
むしろ、真っ直ぐで優しくて男らしくてたくましい父親だ。
わたしはそんなお父さんが父親で良かった。
娘のためにきちんと人を叱れて、自分を省みる父親で良かった。
「お父さん、謝らなくていいよ。その代わり笑ってよ。お父さんがバカでかい声で笑ってなきゃわたしも調子狂っちゃうよ」
「そうだな...。はは...はっはっは...!」
無理やり笑うお父さんはなんだか可哀想だったけれど、こうでもしなければずっと陰鬱な空気が漂ったまま生活することになっていたかもしれない。
そんなの嫌だから。
わたしはそんな風にこれから先も生きていきたくないから。
だから、無理やりでも笑わせ、わたしも笑うんだ。
その晩、いつもと変わらず、父は店に立ったのだった。