嘘つき社長と天使の恋物語
車を走らせながら。
「嶺亜さん。仕事は続けたいの? 」
尋ねられ、嶺亜はちょっと迷った顔をした。
「私は、妻には家にいて欲しいんだ。家の中をちゃんと、守って欲しいから。どうしても仕事をしたいなら、私の会社で働いてもらえないだろうか? 」
「そんなところまで、甘えてしまっていいのですか? 」
「遠慮するなって言ったじゃないか。それに、一緒にいる時間を増やしてゆきたいんだ。沢山、嶺亜さんと、楽しい思い出を作りたいと願っているから」
とても嬉しい言葉に、嶺亜は胸がいっぱいになった。
「有難うございます。今の仕事が終わりましたら、少し考えてもいいですか? 」
「ゆっくり考えればいい。今は、ちゃんと怪我を治して元気になる事が先だからな」
「はい・・・」
そのまま車を走らせて会社までやってきた悠大と嶺亜。
廊下を歩いていると、社員とすれ違った。
「あ、社長お疲れ様です」
男性社員が声をかけてきた。
「お疲れ様」
「社長、奥様ですか? 」
「ああ、妻の嶺亜だ」
男性社員は嶺亜を見た。
「随分と綺麗な奥さんですね、羨ましいです」
笑いかけてくれ男性社員に、嶺亜はちょっとぎこちない笑みを浮かべた。
社長室に向かうと、和也がデスクで仕事していた。
「ん? あれ? 来たの? 」
手を止めて和也が言った。
「ああ、ちょっとやる事があったからな」
悠大の後に入って来た嶺亜を見て、和也はきょんとなった。
「姉ちゃん。どうしたの? 」
悠大は嶺亜をソファーに座らせた。
「ちょっと、ここに座ってて」
そう言って、悠大は冷蔵庫から冷たいカフェオレを取り出して、マグカップにいれると、レンジで少し温めて嶺亜に持って行った。
「あんまり温かくしていないから、これ飲んで待ってて」
マグカップには、ちゃんとストローまでさしてあった。
「有難うございます…」
嶺亜はマスクを少しだけずらして、ストローでカフェオレを飲み始めた。